ネット不動産フロンティアノート



【第11章】ネット不動産仲介業の未来

11−(4)10年後の不動産仲介業界

10年後の不動産仲介業界を予見する前に、現在の仲介業界について、おさらいをしておきます。

まず、現在のわが国の不動産仲介業の市場規模はどのぐらいの大きさなのでしょうか。売買仲介、賃貸仲介を含めた仲介手数料の総額についての統計資料は、残念ながら存在しません。

矢野経済研究所は、毎年、「不動産仲介市場の将来展望と事業戦略」(115,500円)という高価な研究レポートを発行していますが、売買仲介の取扱い件数を59万件〜79万件と推定している程度で、仲介手数料の市場規模についての把握はできていません。

そこで、公表されている各種統計資料から、仲介手数料について大胆な試算をしてみると以下の通りです。

中古住宅 50万戸×2(売・買)×1,500万円×3%=4,500億円
新築住宅 80万戸0.5(仲介比率)×3,000万円×3%=3,600億円
更地取引 65万件×2(売・買)×1,000万円×3%=3,900億円
賃貸仲介(MDB市場レポート2005年版の推計)=2,328億円

計 1兆4,328億円

この数字は事業用物件の仲介手数料を含めていないものなので、事業用物件の仲介手数料を合わせると、わが国の不動産仲介業の市場規模は1兆5,000億円程度と推定できます。

云うまでもないことですが、売買にしろ、賃貸にしろ、不動産仲介業は景気動向に大きく影響される業種なので、上・下の変動幅は各々10%程度とみます。今後は、地価下落と取引件数の減少が続くので、良くて横ばい、厳しく見れば、市場規模は縮小傾向が続くと見るのが正解ではないでしょうか。

しかし、悲観的になることは、まったく、無用ですし、有害です。なぜかといえば、不動産仲介業は「不況に強い」業種だからです。

不況が続けば、(1)換金売りの物件が増えるし、(2)自己破産も増え、結果として競売物件、任意売却物件も増加します。さらに(3)遊休地の売却は一層進むに違いありませんし、(4)不況対策・内需振興策として、金融・税制面での住宅取得優遇策も期待できます。

たとえ、仲介業界としてのパイの大きさ、市場規模は縮小したとしても、自社の得意な分野を伸ばし、業界の変化を先取りした仲介業者は、生き残れるだけでなく、勝ち残れる、つまり、勝ち組になれるのです。

今、世界経済はグローバリゼーションとインターネット革命という大変動期を迎えています。幸い、ドメスティック産業(国内限定業種)の代表格であるわが国の不動産仲介業は、国際化という荒波の影響は直接的には受けていません。

しかし、インターネット革命という時代の大潮流、世の中の大変革に直面し、仲介業者はその営業戦略を根本から変化させていかざるを得ない立場に立たされています。

好きとか嫌いの話ではなく、得意とか不得意のレベルでもありません。時代が、世の中が、情報発信・受信の手段が、インターネット中心に根本から変わったのです。この認識を誤り、従来の集客手法にこだわり、インターネット時代にふさわしい営業スタイルを生み出せない仲介業者は、10年後には確実に淘汰され、世の中から消えていくことでしょう。

戦略的な用語でいえば、不動産仲介業はインターネット革命という外部からの挑戦を受けている真っ最中です。この挑戦に対して、真正面から受けとめて「応戦」する気概・勇気を持たない業者は戦場から消える運命にあるわけです。

戦略に触れたついでに云えば、インターネット・ホームページを中心に運営するネット不動産の場合、売買仲介業は長期戦・持久戦であり、賃貸仲介業は短期決戦だと云いうことをはっきりと認識することも大切なことです。

繰り返しになりますが、インターネット革命は国民生活を根本から変えたのです。特に、情報収集という面から見れば「革命的な変化」が起きてしまったのです。

この変化が不動産マーケットの情報収集手法を根本から変えてしまったのであって、当然の結果として不動産業界、特に仲介業界に「革命的」な変化を迫っているわけです。

それは広告媒体の変化に顕著に現れています。つまり、どんな方法で広告・広報を実行し、お客様に情報を伝達するかという手法・手段が「革命的」に変わったということを意味しています。

これは、チラシ広告の反響率が激減し、1万枚の新聞折込チラシを配布しても、問い合わせは1〜2件という現実を反映した結果でもあるし、インターネットが紙媒体を駆逐したという現実をあわらす成果でもあります。

インターネット時代の特徴の一つは、物件情報の価値が限りなくゼロに近づくという点があげられます。だとするならば、鮮度が落ちて情報価値がゼロになる前に、情報の先出し、丸出しこそが対応策になることは明らかではないでしょうか。情報の囲い込みによる両手数料ねらいの仲介業者に未来があるとは思えません。

お客様にとって、物件情報の価値はゼロになったとしても、仲介業者の会社情報やスタッフの信用・信頼情報がゼロに近づくわけではありません。むしろ、その価値は一層大きくなるといえます。

一生一度の超高額商品である住宅を求めているお客様にとって、信頼できる会社やスタッフを見きわめることは、物件の見きわめ以上に大事なことは云うまでもないことです。しかも、インターネットはそれを可能にしたのです。

インターネットを利用して各社のホームページを訪ねてみれば、物件情報だけでなく、経営者やスタッフの姿勢、思い、目標が見えてきます。お客様にそれが見えないホームページは、その段階で「失格」です。

ホームページはショーウィンドウに例えられます。この店は何を売っていえるのか、どんなお客様を対象にしているのか、なぜか店の中も覗きたくなる魅力を持つことがショウーウィンドウの役割です。

これは、トップページの役割です。お客様がショーウィンドウとしてのトップページを見て、ウン、この店は品揃えもいいようだし、店員の応対も良さそうだと感じてもらえば合格点です。

お客様が店の中に一歩踏み込む、この行為は、ホームページの物件一覧や店長ブログ、高額商品購入時の注意点、ローンの組み方、マイナス情報の確認と対応などの項目を開いて、閲覧してもらうことです。この段階で、ブログやマイナス情報も含めた各種情報の発信が重要な役割を果たすことになるわけです。

不動産仲介業はサービス業です。しかも、「物件情報」という情報に特化した情報サービス業です。今や、サービス業の比重は全体の経済活動の7〜8割を占めるまでになっています。ところが、サービス業としての知識体系や方法論は、いまだ確立しているとはいえません。

「サービス」の定義すら定かではありません。サービス=モノでない何か、といった程度の段階に止まっているわけです。ましてや、不動産売買仲介業は超高額商品を未経験であるお客様が買う行動をサポートする専門サービス業なわけです。まだまだ極めるべきテーマが数多く残されている知的フロンティアの世界だともいえます。

不動産仲介業は、情報サービス・専門サービスという特性に加えて、「地域ビジネス」という特徴を持っています。この地域ビジネスという側面をとらえて、「地域密着」路線さえ貫徹すれば、地域の一番店・勝者になれるかのごとき考え方が業界の一部には残っているようです。

たしかに、土地にしろ、建物にしろ、物件は地域に存在するわけですから、文字通り「地域密着」であることはまちがいありません。しかも、売り主も買い主も地域内に住むお客様であることが多いわけです。

しかし、インターネットの最大の特徴・特性は、その広域性にあるわけです。この広域性を生かして、物件の売り主、買い主、借り主に対して、広く情報発信をすることは、物件の地域密着性と何ら矛盾するものではないし、ネットの広域性と物件の地域性が有機的に連動するなかにネット不動産仲介業の未来展望は拓けてくるものです。

物件情報や地域情報の面では「地域密着」「地域深耕」を徹底することで、時代とお客様が求めている「情報の集積点」「情報の結節点」となれるのであって、それこそが、インターネット時代の不動産仲介業にとっての「戦略的高地」ではないでしょうか。

わが国の不動産仲介業の未来を語る場合、「情報の囲い込み」という業界の醜い面についても触れざるを得ません。「情報の囲い込み」とは、売却を依頼された仲介業者が、両手数料を稼ぐことを目的として、物件情報を自社で囲い込み、物件情報を世間一般に流通させないという違法行為をさす「業界用語」です。

これは、できるだけ早期に、しかも高額で売却するという売り主の利益を裏切ることでもあるし、不動産流通の活性化を阻害し、業界全体の信頼を失わせる重大な背信行為に他ならないことです。

売り主にとっても、業界にとっても、決して利益にならない行為ですが、売却の依頼を受け、売り主・買い主の両方から仲介手数料を得ようとする業者にとっては「おいしい話」となるわけですから、業界の裏側に根強く残っているわけです。

2009年の総選挙で民主党は原則として「両手取引禁止」をINDEX2009に掲げました。両手取引こそが、不動産仲介業界に存在する不透明感の原因であり、「諸悪の根源」と見ぬいたからでしょう。

しかし、なぜか、この正論は民主党の政策集からから消えました。巷間伝えられるところによれば、大手仲介業者の一部と、既得権を手放したくない一部の中小仲介業者が、民主党の「実力者」小沢一郎氏に強力に働きかけて撤回させたとのことです。

しかし、ご安心下さい。平成の黒船「TPP」がまちがいなくこの「旧弊、悪弊」を取り払ってくれるでしょう。法律論からいっても、「双方代理」に限りなく近い「両手取引」は筋の通らない主張ですし、経済論でいえば、売り主の利益を損ない、業界の信頼を失う行為だからです。

ただ、いささか残念なのは、この旧弊・悪弊を、わが国の業界自体の手で、業界の自浄作用として実現できそうもないことです。

いつの日か、両手禁止が達成されたときには、買い主の利益を最大限に実現することに専念する買い主代理・バイヤーズエージェントの制度が、わが国の不動産仲介業界にも定着することになりそうです。

これからの10年、わが国の不動産仲介業界はどのような変貌を遂げるのでしょうか。財閥系・電鉄系・信託銀行系の超大手の仲介業者が大都市圏でそのブランド力を生かして生き残ることは確かでしょう。

しかし、大手仲介業者の最大の強みであり、「旨み」でもある両手数料取引が「原則禁止」となれば苦戦は避けられそうもありません。

弱者の戦略としての中小業者の手数料値引きや無料化も一層広がるのかもしれません。加えて、2011年の秋にイオンモールが不動産仲介業への参入を表明しました。大和証券も参入を考えているようです。

それはそれで、大いに歓迎すべきことです。なぜかといえば、これまで、あまりにもお客様のことを考えないで、自社の利益のために、業界の利益のために、 不透明なことがらを数多く残したまま展開してきたのが、この業界だったからです。

黒船であれ、TPPであれ、大手の新規参入であれ、この業界を根本からお客様本位に変える勢力であれば、大歓迎です。地域に密着し、お客様に密着した仲介業者にとって、何ら恐れるものではないからです。

恐れるべきことは、別にあります。それは、10年後の将来像を語れない会社は存続できないということです。そんな会社には人材は集まらないし、今いる人材も逃げ出してしまうからです。

わが国の不動産仲介業界には、取りくむべき課題が数多く残されています。情報の囲い込みに象徴される不透明な業界体質と取引慣行「一期一会」の正反対ともいえる、その場限りの、一度限りの接客対応。倍増、3倍増が予想される中古住宅の取引に対応できるホームインスペクション能力の向上。所得が増えない時代にあっての住宅取得のアドバイス力・コンサルティング力。数えあげればきりがありません。

これらの課題にしっかりと向き合っていきながら、
○ ホームページ、インターネット活用による集客ノウハウの蓄積と活用。
○ 見込客のデータベース化によるお客様情報の蓄積と活用。
○ 成約客のネットワーク化による顧客情報の蓄積と活用。
○ 物件情報・地域情報の蓄積と発信。
○ 地域内外のお客様からの信頼の蓄積と自社のブランド化。
などの能力・経験を積み上げることで、自社独自の大きな資産・経営資本が実現できた仲介業者だけが10年後も生き残れるといっては厳しすぎるでしょうか。

これからの10年は、今までの20年、30年に匹敵するぐらいの変化の大きい時代であることはまちがいありません。ましてや、不動産仲介業は国民生活や国民経済の影響をまっ先に、まともに受ける業界です。

不況とデフレが続く10年なのか、あるいはインフレの荒波にも備えなければならない10年なのか、定かではありません。インターネットの世界がどのような変化・進化を遂げるのかも、方向性が見える程度です。

こんな時代にあって、企業の経営者、業界のリーダーに求められることは何でしょうか。実務能力や先見力といった経営スキルが必要なことは、云うまでもないことです。

しかし、経営者・リーダーに時代が求めていることは、志・情熱・使命感といった「心構え」であり、時代を切り拓くフロンティアスピリッツではないでしょうか。

フロンティア・パイオニアには二つの使命が課せられています。一つは、先の見えにくい時代にあって、先陣を切って道を切り拓くパイオニアとしての役割です。

二つ目は、切り拓いた道沿いを、開墾して種をまく開拓者としての役目です。

「ネット不動産フロンティアノート」の執筆準備を始めて3年が経過しました。予定を大幅に超えて今回で53回目の連載です。

記述した内容に大きな誤りはないつもりですが、データが旧くなったものもあります。ネット不動産の「未来予測」については、書くべきテーマはまだまだ多いわけですが、今回で一区切りとします。

今後については、書き終えたテーマについてもさらに分析を深めて、新たな視点・論点を加えて載せることにします。新たなテーマについても随時掲載を予定しています。

永いあいだお付き合い、ありがとうございました。



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