ネット不動産フロンティアノート



【第11章】ネット不動産仲介業の未来

11−(1)未来戦略

わが国の不動産仲介業者が、インターネット・ホームページを本格的に導入し、活用を始めてから10年余りです。

私がネット不動産フロンティアノートの執筆準備に取りかかってからでも、はや3年が経過しました。

一つの締めくくりとして、5年後、10年後の不動産仲介業の未来予測と、それに備えるべき戦略展開についてまとめてみることにします。

未来予測と戦略展開について考える場合、ポイントは以下の三点です。

(1)長期的に考える。
(2)多角的に考える。
(3)本質的に考える。

(1)の長期的に考えるということを具体的に考えてみます。それは、目先の事がらや利益にとらわれずに、長期的な視点、長期的利益を基にして考えることです。

世界の経済が不透明感を増し、わが国の経済不況が深刻化するに伴って、不動産仲介業界も厳しい時代に入っています。逆説的ですが、こんな時代にこそ、目先の利益を追求するのではなく、長期的利益・視点が求められているのではないでしょうか。

(2)の多角的に考えるとは、以下の三つの視点・立場からの考察です。
○ 自分・自社・所属する業種・業界の視点から考え、分析する。
○ 相手・他社・他人・他業種の視点から考え、分析する。
○ 天・大局・歴史・世界の視点から考え、分析する。

(3)の本質的に考えるということは、実は、意外と難しいことです。その理由としては、わが国の学校教育・受験教育が暗記主義・詰め込み主義が主流であり、自分の頭で物事を考えるという、本来の教育が果たすべき役割が放棄されてきたからです。

現実から学ぶ、生活から学ぶ、仕事を通して学ぶ、実践を通して学ぶのではなく、教科書から学ぶ(丸暗記)レベルの教育が永く続いた結果であり、根深いものがあります。

幸いなことに、わが国の不動産仲介業、特にネット中心の不動産仲介業には 「教科書」や「お手本」は存在しません。仕事を通して学ぶ、内外の同業他社から学ぶ、お客様から学ぶ、時代から学ぶ、つまり自分の頭で考える以外に道はないのです。

インターネットを中心に据えた不動産仲介業は、まだまだ「黎明期」です。人間の成長でいえば、小学校の低学年に相当する時期にあるといえるでしょうか。

未来を考え、戦略思考を展開するには、教材も足りないし、経験も不足しているのも厳然たる事実です。

しかし、あきらめてしまっては、それまでです。地図がなくても山登りはできます。海図がなくても、船と勇気と若干の軍資金さえあれば、大海原に乗り出すことはできるのです。

地図のない場所で、自分の頭で考えぬき、自分で道を切り拓くことができる「恵まれた時代・恵まれた業界」に自分達は今いるということです。考えようによっては、これは大変幸運なことではないでしょうか。

そんな思いを込めて、ネット不動産仲介業の未来について論を進めます。

21世紀に入って、未来予測の難しい時代になったといわれます。かつての高度成長期の頃は、未来予測はそれほど難しいものではありませんでした。

社会の変化が、ほぼ右肩上がりに一直線に伸びる時代にあっては、現状の数値に対して人口の増加率や経済の成長率をかけて計算すれば、概ねの数値予測ができたからです。

その数値に、「現状」の変化や方向と強さの補正を施せば、大きく外れることのない「未来予測」が可能だったのです。

ところが、今の時代は、3年後の変化すら予測できない世界になってしまいました。つまり、具体的、定量的には未来を予測できない時代になってしまったのです。

しかし、大局的、傾向的に未来を予見することはできるはずです。現状を具体的に分析し、現在の「存立基盤」とその変化についての分析を通して、いく通りかの「シナリオ創り」という手法がそれを可能としたのです。「シナリオ・プランニング」という手法が未来予見を可能としたのです。

変化の激しい時代には、将来を単線的に予測しててもあまり意味のないことです。シナリオ・プランニングという手法は、従来の「予測」に代わって、国家、企業、個人が将来へ向かってよりよい決定が下せるよう、その変化対応能力を養うための手法でもあります。

将来を的確に予測することはできない、という事実を受け入れ、今、どのような意思決定をすることが最も合理的かを考える。そのために、複数の未来を想定し、そのうちどれが実現しても対応できる戦略を採用することこそがシナリオ・プランニングの最大の特徴といえます。

本稿は、シナリオ・プランニングの考え方を採り入れ、不動産仲介業の存立基盤を個別・具体的に検討し、存立基盤の変化がどのようにして起こるかを分析することで、わが国不動産仲介業の未来予見を試みるものです。

不動産仲介業に限らず、全ての国内サービス業でいえることですが、1億2,800万の人間が5,000万の世帯を構成して、この日本列島で生活していることが唯一・最大の存立基盤なのです。そして、人口と世帯の数と構成の変化が今後の業界のあり方に決定的な影響を及ぼすということです。

さらには、国内の経済活動の現状とその変化予測に加えて、国民生活がこの5年、10年でどのように変化するのかが、不動産仲介業のあり方に大きな影響を与える基本的な要素です。

まず、国内の経済活動、日本経済の現状と見通しについて検討するわけですが、それに先行して、世界経済の見通しについての検討が避けて通れません。

云うまでもないことですが、国内経済に影響を与える最大の要因は、今や、世界経済の動向であり、世界経済の変化がダイレクトに日本経済に変動をもたらす時代になっています。

恐ろしい話を最初にします。国際的なトップ・シークレットです。

ギリシャから始まったEU諸国の金融危機・国債危機は当局側が束になっても打つ手がありません。最終的にはマーケットのみが決定権を持っているからであり、国家や中央銀行にできることは限定的だからです。

欧州の銀行(90行)が隠している不良債権は5.4兆ドル(420兆円)です。EU諸国のGDPの43%に相当する巨額なものです。

米国の銀行も、デリバティブを使っての飛ばしや、FRBに暴落した住宅証券を押し付けるなどして損失隠しをしていますが、その額は約300兆円と推定されます。

欧米の金融機関(銀行、保険、証券会社)の損失隠しは合計720兆円、全金融機関を債務超過にさせる額の2倍に相当する額です。

加えて、住宅ローンの負債をかかえ込み、住宅価格の2分の1以下への下落による債務超過世帯は、米国で5,000万世帯、欧州で6,000万〜7,000万世帯、日本で1,000万世帯と推計されています。(これは、秘密ではなく、公知の事実です)

以上は、吉田繁治氏の新著「国家破産」(PHP刊)による推計ですが、当たらずとも遠からずの数字とみます。

わが国は、金融危機の経験国・先進国としてみた場合、欧米諸国に10年程度先行しています。この金融危機「先進国」の経験が、欧米の危機の実態と本質を透視させてくれているとしたら、デフレの20年間に払った「授業料」も決して高いものではなかったといえそうです。

世界経済の悲観論を紹介したついでに、最悪のシナリオ、最悪の悲観論もご紹介します。

それは、今回の危機を「国債バブルの崩壊」による一過性の金融危機としてとらえるのではなく、「資本主義の転換点」としてとらえ、低成長・低金利・デフレの時代が世紀をまたぐスパンで続くと予測する「超悲観論」です。

今回の危機を一過性の金融危機とみるならば、4〜5年で底打ちして、回復に向かうと予測できるわけですが、「資本主義の転換期」に入ったとみるならば、危機が終わるのは早くとも数十年先ということになるわけです。

これは、日本デフレの長期化と米国住宅バブルの崩壊を予測して、的中させた水野和夫氏が最新著作「終わりなき危機――君は、グローバリゼーションの真実を見たか――」での「予見」です。

自分の立場や利害から発言する「ポジション・トーク」のエコノミストが多いわが国の経済専門家の中で、異色の存在ですが、水野氏の「予見」は大筋で的中しており、管内閣で内閣官房審議官に就任した人です。

どのような業種・業界にあっても、未来戦略を立案し、シナリオを作る場合は、まず最悪の事業環境・経済環境を想定し、最悪の事態が続いても、企業なり個人が生き残ることが第一の戦略目標です。

わが国の経済が、これからどのようなシナリオに基づいて展開する可能性が高いのかをまず予見することにします。

ご存知のように、わが国の公的債務(国と地方の借金)は1,000兆円を超え、GDPの2倍超です。

国家財政の現状とこれからの見通しについては、破産論と大丈夫論に二分されています。

まず破産論から検討します。破産論の根拠は以下の三点です。

(1)2012年から本格化する、ベビーブーマーの65才からの退職は、日本経済の活力・基礎体力を弱体化させる。
(2)GDPの増加は期待できない。したがって税収も増えない、社会保障費は確実に増加する。
(3)国民の貯蓄の増加は、増発される国債を引き受けるには、不足するようになる。このため、国家財政は、毎年150兆円以上が満期になる国債の償還(借り換え)ができず、国債は暴落して金利が高騰し、破産に向かうのは必然である。

これが、破産論の骨子ですが、いつ、これが現実化するのかは、複雑な要因がからみあっており、不透明でした。特に、わが国の場合、消費税率が5%であり、先進国のなかでは最低の水準であるために、消費税率の引き上げによる「財政改善」の余地があり、この期待がかろうじて国債価格を維持してきたといえます。

ところが、消費税引き上げの議論が迷走し、「景気回復を前提として」という実質的には不可能に近い条件が付けられました。

2012年3月末までの国会審議のなりゆきを見ながら、ヘッジ・ファンドが国債の空売りを仕掛けてくるとの噂が、ここに来て、急に現実味をおびてきたのもうなずけます。

次に、大丈夫論を検討します。大丈夫論の根拠は以下の三点です。

(1)国債の金利が低い。国債金利は、史上最低の1%前後である。対外負債の多いPIIGS諸国の金利5〜20%とは違う。国債金利の低さは、金融機関に余剰資産があり、国債は安全資産とみなされているからだ。個人金融資産が、政府負債の1.5倍、1,500兆円あることがこれを担保している。
(2)日本には、251兆円の対外純資産がある。海外からの借金の多いPIIGS諸国や米国とは違う。不良債権化したPIIGS債や東欧債をかかえるユーロとも異なる。対外資産563兆円マイナス対外負債312兆円で、対外純資産は251兆円(1年の国債増発の6年分)もある。歴史的にみても、大きな対外純資産をもつ国の財政は破産しない。
(3)円高の意味するものは何か。円が1ドル=77円にも上がっている。これは、財政が赤字でも日本経済を海外が高く評価し、ドルやユーロ債を売って円債を買っていることを示している。そもそも、財政破産論は、増税をしたい財務省が国債の「急増データ」を国民に示して仕掛けたものである。これに、エコノミストとマスコミが、加わったものにすぎない。

巷には、国家破産論・大丈夫論・インフレ論・デフレ論が溢れています。書店のビジネス書・経済書コーナーには類書が山積みにされています。

これは、個人の生涯設計、住宅・不動産を含む金融資産、企業経営に大きくかかわる国家財政について、見通しをつけないと、数年先のことも考えることができないという、現在の「特殊事情」を反映したものです。

老婆心で付け加えると、国家財政が破産しても、企業や世帯が破産するわけではありません。ただし、国家、自治体、独立行政法人を合計した400万人の「公務員」は国家破産で多大な影響を受けることはまちがいありません。

さらに蛇足を書き加えれば、国家破産は400万人の「公務員」と40兆円の人件費(マチガイではありません)について、大ナタを振るう唯一・絶好の「機会」となるのかもしれません。

本論に戻ります。

かなり込み入った議論になりますが、自社や個人が生き残れるか否かを左右する最重要課題ですので、避けて通るわけにはいきません。

財政の赤字がいかに大きくても、国債を買う人がいれば、財政は破産しません。逆に国債を買う人が減れば、金利は上がり、財政は破産します。財政が破産するかどうか、いつ破産するかは、国債の買い手に資金余剰があるかどうかで決まります。

政府の負債(国債)の残高が950兆円と大きいため、長期国債の金利が2%上がると、財政はほぼ2年で破産に向かいます。(この議論には異論・対立はありません)

経済の主体は、以下の5部門であり、この部門のあいだをマネーがどう動くか、流れがどう変化するかが、国民経済であり、国家財政です。(以下は、2011年3月末の日銀作成「わが国の資産循環表」によります)

(1)5,000万世帯の家計
(2)285万社の企業(非金融法人)
(3)日銀を含む全金融機関
(4)政府(国、自治体、独立行政法人)
(5)海外部門(海外にもマネーが流れるのがグローバル時代の特徴です)

(1)の家計部門は1,110兆円のマネー(資金)の貸し手です。その内訳としては、預金764兆円、株と国債を含む証券182兆円、生命保険の基金(掛金)、その他(タンス預金を含む)110兆円の合計額である家計部門(自営業者を含む)の金融資産1,476兆円から、住宅ローン等の負債366兆円を控除したものです。

普通の人は、マネー(資金)の貸し手は金融機関だと理解する人が多いわけですが、国民経済という立場からみれば、金融機関は、世帯・企業・政府・海外から資金を預かって、国・企業・海外・世帯への、貸付金と国債・証券買いとして運用。仲介するだけの仲介機関なのです。

この家計部門の金融資産が、世帯の高齢化に加えて、ベビーブーマー世代の退職、世帯の平均所得の減少という要因で、1990年代までの増加傾向から減少へ向かっているのが2000年代の特徴です。

これは、構造的なものであり、株価の変動で若干の増減はあるものの、大きく変わることはありません。

このことからいえることは、個人金融資産の増加が、預金として銀行に預けられ、銀行は(他に優良な融資先がないので)国債を買うという「好循環」は、もう望めないということです。

世界最大の個人金融資産を持つ、わが国の家計部門が、高齢化の進行に伴い、国債の買い手から、売り手に変わる(ゆうちょ銀行と年金基金が売り手になる)ということは、マネーの流れの潮目が変わるということであり、金融マーケットに決定的な影響を与えます。

(2)の企業部門は258兆円の純借り手です。預金189兆円、株式171兆円、社債・国債の債券438兆円の合計798兆円の金融資産を保有する一方で、1,056兆円を借り入れしています。「資産循環表」からみれば差引258兆円の純借り手ということです。

2000年代に入って企業は設備投資を大幅に減少し続けています。金融機関は地価下落による土地の担保価値の減少で、企業への貸付金を減らし続けています。

設備投資の減少は、企業にとっては借入金を減らし、減価償却費相当分だけ資金余剰を生むことになります。これが預金増となり、金融機関に戻ります。

一方、金融機関側としては、土地担保下落による資金回収に加えて、企業の設備投資減少により、結果としての預金増となるわけです。

2010年度の集計では、企業は31兆円の資金の出し手として金融機関に預け、金融機関はゼロ金利政策と量的緩和効果もあって、43兆円の国債を買うことができたわけです。

万一、31兆円の企業部門の資金余剰がなければ、2010年には、債券市場で国債の引き受け難が起こり、金利上昇(国債価格下落)が現実化した可能性が高かったわけです。

07年に90兆円あった民間企業の設備投資額が、11年には74兆円に減っています。仮に、企業が、新規の設備投資を07年並みの90兆円に増やすとすれば、企業は10年度の31兆円の資金の出し手から、10兆円台の出し手になるわけです。

金融機関は、対前年で40兆円の預かり資金が増えないと40兆円超の国債の増加買いはできません。さらに、2〜3年間は続くと予想される(震災特例国債)の総発行額30兆円を加えると、13年度まで国債の新規発行額は年に50兆円となりそうです。

これが、11年末の国債市場の実態です。野田総理が、年末の民主党議員総会で「消費税引き上げ」を強引に認めさせたのも、この実態をある程度知っているからでしょう。

しかし、15年までの消費税の10%への段階的引き上げ程度の対策は焼け石に水であり、出し遅れの証文です。今のタイミングでの消費税引き上げは、消費を冷やし、デフレを加速させ、結果としては日本経済にマイナスの効果をもたらすと思えてなりません。

「資金循環表」の(3)日銀を含む全金融機関、(4)政府(国、自治体、独立行政法人)についての分析・検討は、議論を単純化するために、ここでは省きます。

(5)海外部門は259兆円の純借り手です。2011年3月末のわが国の対外投資が605兆円、海外からの対日投資346兆円、その差引額259兆円が、わが国からみれば対外純資産、海外から見れば対日純負債(借り手)となるわけです。

この対外純資産259兆円を売却し、日本国債購入に充てれば6.5年分はまかなえるという議論があります。しかし、これは大幅なドル安を引き起こし、ドル建て資産(605兆円)を減らすリスクがあり、実際的には不可能です。

現に、ここ2年来の20%近いドル安・円高で、外債を巨額にもつ日本の金融機関と政府は120兆円を超える損失を抱え込みました。

この巨大な含み損は、銀行、保険会社のバランス・シート、政府外貨準備、ゆうちょの外債投資、年金基金の外債投資に、大部分が隠されたままです。

わが国の金融機関の自己資本は120兆円程度ですから、実質債務超過となるような「事実」は何としても隠し通すか、1ドル95円程度に早く戻ることを祈るばかりということでしょうか。

いざとなれば、日銀が国債の直接買いをすればよいという主張があります。これを禁じている財政法を改正すれば可能だという議論です。

与野党を問わず、国会議員の少なからぬ部分が、まだこの手段が残っていると考えているようです。エコノミストと称する人の中にも、日銀は国債直接買いに動くべきだという主張をする人もいます。

「日銀の国債直接買い」という主張が、いかに「脳天気」な議論であるかを以下で立証します。

日銀の国債直接購入は、単年度で終わるのではなく、長期にわたり毎月、毎年、国債買いが増え続ける、構造的なものと市場は見ることになります。

国債の発行・取引額は、既発国債の満期償還額123兆円=950兆円÷7.7年(平均満期)、新規発行額44兆円(2012年度予算)、計167兆円です。これに震災復興債10兆円を加えれば、177兆円に達します。

これは、社債の満期が次々にくる赤字会社と同じで、社債の買い手がいなくなれば、3ヶ月ぐらいで手元の資金が枯渇し、破産します。

マーケットに買い手がいなくなり、代わりに日銀が直接買い入れに乗り出したとすれば、海外を含む市場関係者はどう判断するでしょうか。

いよいよ日本の財政は追い込まれ、最後の手段、禁じ手を使ってきたと判断するのは理の当然です。

利に聡い市場関係者の一部は、日本国債の購入を止めるだけではなく、国債の先物売り(空売り)に転ずるのも自然な流れです。

特に、わが国の財務省や日銀に睨まれることなど全く気にしない海外勢が、ビッグ・チャンス到来ととらえることは火を見るより明らかなことです。

別に海外のハゲタカ・ファンドばかりがこのチャンスを狙っているわけではありません。わが国でも2011年秋から「ミニ債券先物」という金融商品が登場し、国債の先物取引に個人レベルでも参加できる体制が整いました。

従来1枚(取引単位)1億円であったものが、「ミニ取引」では1枚1,000万円となり、証拠金取引による差金決済(取引価格と3ヶ月先の決算価格との差額受払)となるので、1枚5万円強の証拠金で国債先物取引が可能になったのです。

2012年1月現在、1%前後の長期金利(国債10年物金利)が本来の自然金利である6%に上昇(国債価格は暴落)したとすれば、422万円余りの利益が手に入る計算になります。

念のために申し添えますが、先物取引には普通の個人投資家は決して手を出してはいけないという「鉄則」があります。

その理由として、先物取引をすると相場にばかり関心が向かい、本来の仕事に集中できなくなり、仕事で失敗する可能性が高くなるだけでなく、体を壊すからだとされているからです。

ただ、今のように、国債価格の暴落が秒読み(月読み?年読み?)に入った段階では、金融マーケットの実際を知るための「授業料」として、自分のポケットマネーでミニ国債先物を購入してみるのも面白いのではないでしょうか。

本題に戻ります。

日銀による国債の直接購入が禁じ手であり、通常では使えない手段であることはよくお分かりいただけたと思います。

しかし、この手法が発動される可能性はゼロではありません。3.11の「想定外」の巨大地震と巨大津波で福島第一原発は制御不能に陥りました。その結果として発生した「低濃度汚染水」を大量に海に流さざるを得なくなりました。

これは、世界の目から見れば、完全な禁じ手であり、決して出来ないことのはずですが、実行されました。

同じようなことを国債未達=国家破産という非常時に直面したとき、わが国の指導部が選択しないとは考えにくいことです。

マーケットは、時には暴力的な側面を見せます。マーケットの参加者の半分が、買い手であることを止め、残りの半分が売り手(空売り)に回ったら、マーケットはどんな様相になるのでしょうか。

国債の未達とは、こういった異常事態・非常時を意味しているのです。

「国家破産」の著者吉田繁治氏は、日銀が国債の直接購入に踏み出した後の仮想風景を以下のように描いています。

債券市場では国債価格の下落を恐れたPIIGS債のように売りが殺到して金利が上がり、満期が来る国債も日銀引き受けを迫られる。

借換債158兆円、新既債40〜50兆円で、1年に200兆円ぐらいの「1万円札の発行」になる可能性がある。200兆円が金融機関が日銀に開設している当座預金(金利ゼロ)に貯まります。

金融機関は運用先を探します。従来、大量に買った国債は下落リスクが大きいため買えません。投資信託、ヘッジファンドへの預託、金利のつく外貨預金でしょうか。企業への貸付は、リスクが高いので増えません。

結果的に、日銀が刷った日本円の膨大なマネーが、海外に流出します(キャピタル・フライト)。円の海外流出は円売り・ドル買い、またユーロ買い、元買いなので、為替市場で、円は暴落します。

円暴落の気配があれば、海外部門が日本にもつ債券(日本の株や国債)の312兆円は、大挙して売られます。遅れれば、円安差額で大損をするからです。

円債券を海外から大きく売られた日本の金利はいっそう上がって(10%以上か?)、950兆円規模の既発国債の価格と株価は、再び底なしに下がるでしょう。国債を買う日銀も、バランスシートに埋めきれない巨大な損失をかかえます。

このとき、日経平均はジェット・コースターのように下がり、5,000円以下でしょうか。1ドル=200円という円安(1980年代初期)に、回帰するかもしれません。

一般的には、通貨の下落は、ハイパー・インフレに向かう物価の高騰です。しかし2010年代の経済では、戦後にあったような、物価が10倍、100倍、300倍に上がるハイパー・インフレは起こりません。先進国での国家財政の破産を、即、ハイパー・インフレとする多くの話は、世界の商品供給力が増え、グローバルなコンテナによる商品流通が急増したことをみない粗雑な俗論です。

新興国の工業化と、先進国での生産力余剰(日本は、20兆円相当の生産力の余剰)があって、消費者物件は上がりにくい。わが国で国家の財政破産があったときの、消費者物価のインフレは、50〜100%と想定します。

不動産も、10年後の人口が大きく減らない地域では、2倍の価格になるでしょう。人口が毎年1%以上が減る地域の不動産は、価格を維持しても、上がることはないと予想します。

固定金利のローンで住宅を買っている30代、40代の世代に、富の移転が起こります。変動金利のローンは、期待インフレ率に比例して金利が上がるのでダメです。

他方、負債のない純金融資産をもっている50代以上世代は、預金、生命保険、年金の価値が半分に下がって、金融資産の2分の1を失うことになります。

企業も、固定金利の借入金で借りているところは、資産と売上上昇の恩恵を受けることになります。その代わり、現在、設備投資を抑えてキャッシュ・リッチになっている大企業が損をします。ただし、円安で輸出が増えるので、その点はカバーされます。

政府部門は、財政が破産すると、400万人の公務員(国家+地方+独立行政法人)を100万人以上削減し、給与水準を70%におさえる削減を図らねばならなくなります。

国家財政の破産は、官僚組織の財政破産(支払賃金の不足)です。この世の終わりではありません。公務員は給料が減らされ、定員が削減され、国民にとっては、年金と公的医療費、社会福祉費が減って、増税に向かう大変化です。

これは選択肢ではなく、いまのPIIGS諸国のように、そうせざるを得ないのです。

通貨下落と金利上昇で、民間経済には、大きな影響をおよぼします。第二の敗戦、経済敗戦です。しかし、戦争とは違い、信用危機・恐慌は、工場、店舗、オフィス、ホテル、レストラン、インフラ設備、国土と自然、そして人材と技術は残ります。

街の外見は変わらない。海辺の街を一瞬で瓦礫にした悪夢のような、人々の命を根こそぎ奪う津波ではありません。

大震災と原発災害を経験した日本人にとって、もう、これ以上にこわいものはない。3.11にくらべれば、たかがお金です。国家財政破産があっても、悲観しないことです。

ここで描いた国家破産に類することを経験したのは、アジアでも少なくありません。いずれも、まず通貨が下落して、そのあと数年で輸出が増え、立ち直っています。97年のアジア通貨危機で、ウォンが崩壊した韓国はその典型です。

ここで、信用危機・経済敗戦が、わが国の不動産仲介業にどのような影響を与えるのかを予見してみます。

通貨下落、インフレの最大の被害者は、金融資産を多くもつ50代以上の世代です。この世代がもつ金融資産は、全金融資産1,475兆円の70%超です。しかも、大部分が預金という形で銀行に預けられ、銀行はその預金を国債で運用しています。

この世代の人々が、安全・確実だと信じている預金が、実は、国債というハイ・リスク資産に化けていることを知ったならば、どんな行動をとるでしょうか。

金(ゴールド)、外貨預金、不動産にかなりの資金がシフトされるはずです。

特に、この世代の多くは、戦後の不動産ブーム、土地神話で損をしなかった経験を持っています。少なからぬ人々が、値上がりの期待できそうな、少なくとも値下がりしない土地や住宅に、金融資産の一部をシフトしようと考えるのは不自然ではありません。

安定した収益が手に入り、しかも、インフレに強い収益物件を求める動きは、すでに底流として動きだしていると感じるのは私だけでしょうか。

これからは、ヨーロッパの金融危機が毎日のように報道され、日本の国債も危機的状況にあることが、日、一日と判明していく日々が続きそうです。

文字通り、インフレの足音が近づいて来ます。そんなときこそ、資産運用のプロとしての不動産仲介業者の出番ではないでしょうか。

今回のフロンティアノートは、不動産仲介業の未来について書くつもりでした。しかし、書き進むにつれて、わが国の経済が直面している国債下落から始まると予想される信用危機、通貨下落の課題を避けて通れないことに気づき、ついつい深入りしてしまいました。

次回以降は、本来のテーマである不動産仲介業の未来について書き進めます。

主要なテーマは以下の通りです。

○ 10年後の不動産仲介業
○ インターネットはどこまで進化するのか
○ 中古住宅流通の変化
○ 「両手取引」の未来
○ 消費税の影響
○ 関連分野・新分野への進出
○ 価値観・住宅観の変化
○ 少子化・高齢化社会と仲介業
○ 生き残れる仲介業の必要条件
○ ネット不動産が切り拓く未来



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